張でうろうろする。
 ト同じ燈籠《とうろう》を手に提《さ》げて、とき色の長襦袢《ながじゅばん》の透いて見える、羅《うすもの》の涼《すず》しい形《なり》で、母娘連《おやこづれ》、あなたの祖母《おばあさん》と二人連で、ここへ来なすったのが、※[#「姉」の正字、「女+※[#第3水準1−85−57]のつくり」、324−7]《ねえ》さんだ。
 やあ、占《し》めた、と云うと、父親《おやじ》が遠慮なしに、お絹《きぬ》さん――あなた、母様《おっかさん》の名は知っているかい。」
 突俯《つッぷ》したまま、すねたように頭《かぶり》を振った。
「お願《ねがい》だ、お願だ。精霊大まごつきのところ、お馴染の私《わし》が媽々《かかあ》の門札《かどふだ》を願います、と燈籠を振廻《ふりま》わしたもんです。
 母様《おっかさん》は、町内評判の手かきだったからね、それに大勢居る処だし、祖母《おばあ》さんがまた、ちっと見せたい気もあったかして、書いてお上げなさいよ、と云ってくれたもんだから、扇《おうぎ》を畳《たた》んで、お坐んなすったのが――その机です。
 これは、祖父《じい》の何々院《なになにいん》、これは婆さまの何々信
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