ぞっとしたくらい、まざまざとここで見たんだよ。
 しかしその机は、昔からここにある見覚えのある、庚申堂はじまりからの附道具《つきどうぐ》で、何もあなたの母様《おっかさん》の使っておいでなすったのを、堂へ納めたというんじゃない。
 それがまたどうして、ここで幻を見たろうと思うと……こうなんだ。
 私の母親の亡くなったのは、あなたの母親《おっかさん》より、二年ばかり前だったろう。
 新盆《にいぼん》に、切籠《きりこ》を提《さ》げて、父親《おやじ》と連立って墓参《はかまいり》に来たが、その白張《しらはり》の切籠は、ここへ来て、仁右衛門|爺様《じいさま》に、アノ威張《いば》った髯題目《ひげだいもく》、それから、志す仏の戒名《かいみょう》、進上《しんじょう》から、供養の主《ぬし》、先祖代々の精霊《しょうりょう》と、一個一個《ひとつひとつ》に書いて貰《もら》うのが例でね。
 内《うち》ばかりじゃない、今でも盆にはそうだろうが、よその爺様《じいさま》婆様《ばあさま》、切籠持参は皆そうするんだっけ。
 その年はついにない、どうしたのか急病で、仁右衛門が呻《うめ》いていました。
 さあ、切籠が迷った、白
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