7]のつくり」、322−6]《ねえ》さんだ、百人一首の挿画《さしえ》にそッくり。
 はッと気がつくと、もう影も姿もなかった。
 私は、思わず飛込んで、その襖を開けたよ。
 がらん堂にして仁右衛門も居らず。懐しい人だけれども、そこに、と思うと、私もちと居なすった幻のあとへは、第一なまぐさを食う身体《からだ》だし、もったいなくッて憚《はばか》ったから、今、お君さん、お前が坐っているそこへ坐ってね、机に凭《もた》れて、」
 と云う時、お君はその机にひたと顔をつけて、うつぶしになった。あらぬ俤《おもかげ》とどめずや、机の上は煤《すす》だらけである。
「で、何となく、あの二階と軒《のき》とで、泣きなすった、その時の姿が、今さしむかいに見えるようで、私は自分の母親の事と一所に、しばらく人知れず泣いて、ようよう外へ出て、日を見て目を拭《ふ》いた次第だった。翌晩《あくるばん》、朝顔を踊った、お前さんを見たんだよ。目前《めさき》を去らない娘《むすめ》さんにそっくりじゃないか。そんな話だから、酒の席では言わなかったが、私はね、さっきお前さんがお出《い》での時、女中が取次いで、女の方だと云った、それにさえ、
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