て。頂いて懐《ふところ》へ入れたが、身体《からだ》は平気で、石段、てく、てく。
九
ニ《フタツ》ノ眼《マナコ》ハ朱《シュ》ヲ解《トイ》テ。鏡ノ面《オモテ》ニ洒《ソソ》ゲルガゴトク。上下《ウエシタ》歯クイ違《チゴウ》テ。口脇《クチワキ》耳ノ根マデ広ク割《サ》ケ。眉《マユ》ハ漆《ウルシ》ニテ百入塗《モモシオヌリ》タルゴトクニシテ。額ヲ隠シ。振分髪《フリワケガミ》ノ中ヨリ。五寸計《ゴスンバカリ》ナル犢《コウシ》ノ角。鱗《ウロコ》ヲカズイテ生出《おいい》でた、長《たけ》八|尺《しゃく》の鬼が出ようかと、汗《あせ》を流して聞いている内、月チト暗カリケル処ニテ、仁右衛門が出て行った。まず、よし。お君は怯《おび》えずに済んだが、ひとえに梟の声に耳を澄まして、あわれに物寂《ものさびし》い顔である。
「さ、出かけよう。」
と謙造はもうここから傘《からかさ》ばッさり。
「はい、あなた飛んだご迷惑《めいわく》でございます。」
「私はちっとも迷惑な事はないが、あなた、それじゃいかん。路《みち》はまだそんなでもないから、跣足《はだし》には及《およ》ぶまいが、裾をぐいとお上《あ》げ、構わず、」
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