むぐさしたが、
「はははは、私《わし》ぐらいの年の婆《ばあ》さまじゃ、お目出たい事いの。位牌になって嫁入《よめい》りにござらっしゃる、南無妙。戸は閉めてきたがの、開けさっしゃりませ、掛金《かけがね》も何にもない、南無妙、」
と二人を見て、
「ははあ、傘《かさ》なしじゃの、いや生憎《あいにく》の雨、これを進ぜましょ。持ってござらっしゃい。」
とばッさり窄《すぼ》める。
「何、構やしないよ。」
「うんにゃよ、お前さまは構わっしゃらいでも、はははは、それ、そちらの※[#「姉」の正字、「女+※[#第3水準1−85−57]のつくり」、312−5]《ねえ》さんが濡れるわ、さあさあ、ささっしゃい。」
「済みませんねえ、」
と顔を赤らめながら、
「でも、お爺さん、あなたお濡れなさいましょう。」
「私は濡れても天日《てんぴ》で干すわさ。いや、またまこと困れば、天神様の神官殿別懇《かんぬしどのべっこん》じゃ、宿坊《しゅくぼう》で借りて行く……南無妙、」
と押《おっ》つけるように出してくれる。
捧《ささ》げるように両手で取って、
「大助《おおだすか》りです、ここに雨やみをしているもいいが、この人が
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