きなり》川柳《せんりゅう》で折紙《おりがみ》つきの、(あり)という鼻をひこつかせて、
「旦那、まあ、あら、まあ、あら良《い》い香《にお》い、何て香水《こうすい》を召《め》したんでございます。フン、」
といい方が仰山《ぎょうさん》なのに、こっちもつい釣込《つりこ》まれて、
「どこにも香水なんぞありはしないよ。」
「じゃ、あの床の間の花かしら、」
と一際《ひときわ》首を突込《つッこ》みながら、
「花といえば、あなたおあい遊ばすのでございましょうね、お通し申しましてもいいんですね。」
「串戯《じょうだん》じゃない。何という人だというに、」
「あれ、名なんぞどうでもよろしいじゃありませんか。お逢《あ》いなされば分るんですもの。」
「どんな人だよ、じれったい。」
「先方《さき》もじれったがっておりましょうよ。」
「婦人《おんな》か。」
と唐突《だしぬけ》に尋《たず》ねた。
「ほら、ほら、」
と袂《たもと》をその、ほらほらと煽《あお》ってかかって、
「ご存じの癖に、」
「どんな婦人だ。」
と尋ねた時、謙造の顔がさっと暗くなった。新聞を窓《まど》へ翳《かざ》したのである。
「お気の毒様。」
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