。一生懸命《いっしょうけんめい》のところじゃないか。」
「あの、梟が鳴くんですかねえ。私はまた何でしょうと吃驚《びっくり》しましたわ。」
 と、寄添《よりそ》いながら、お君も莞爾《にっこり》。
 二人は麓《ふもと》から坂を一ツ、曲ってもう一ツ、それからここの天神の宮を、梢《こずえ》に仰《あお》ぐ、石段を三段、次第に上って来て、これから隧道《トンネル》のように薄暗い、山の狭間《はざま》の森の中なる、額堂《がくどう》を抜けて、見晴しへ出て、もう一坂越して、草原を通ると頂上の広場になる。かしこの回向堂を志して、ここまで来ると、あんなに日当りで、車は母衣《ほろ》さえおろすほどだったのが、梅雨期《つゆどき》のならい、石段の下の、太鼓橋《たいこばし》が掛《かか》った、乾《かわ》いた池の、葉ばかりの菖蒲《あやめ》がざっと鳴ると、上の森へ、雲がかかったと見るや、こらえずさっと降出したのに、ざっと一濡《ひとぬ》れ。石段を駆《か》けて上《のぼ》って、境内《けいだい》にちらほらとある、青梅《あおうめ》の中を、裳《もすそ》はらはらでお君が潜《くぐ》って。
 さてこの額堂へ入って、一息ついたのである。
「暮れる
前へ 次へ
全48ページ中26ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング