あ、そうですか、じゃあ里に遣《や》られなすったお娘《こ》なんですね。音信不通《いんしんふつう》という風説だったが、そうですか。――いや、」
と言《ことば》を改めて、
「二十年前の事が、今目の前に見えるようだ。お察し申します。
私も、その頃|阿母《おふくろ》に別れました。今じゃ父親《おやじ》も居《お》らんのですが、しかしまあ、墓所《はかしょ》を知っているだけでも、あなたより増《まし》かも知れん。
そうですか。」
また歎息して、
「お墓所もご存じない。」
「はい、何にも知りません。あなたは、よく私の両親の事をご存じでいらっしゃいます、せめて、その、その百人一首でも見とうござんすのにね。……」
と言《ことば》も乱れて、
「墓《おはか》の所をご存じではござんすまいか。」
「……困ったねえ。門徒宗《もんとしゅう》でおあんなすったっけが、トばかりじゃ……」
と云い淀《よど》むと、堪《たま》りかねたか、蒲団《ふとん》の上へ、はっと突俯《つッぷ》して泣くのであった。
謙造は目を瞑《ねむ》って腕組したが、おお、と小さく膝《ひざ》を叩《たた》いて、
「余りの事のお気の毒さ。肝心《かんじん》の
前へ
次へ
全48ページ中23ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング