−5]《ねえ》さんは誰? と云って聞くのがお極《きま》りのようだったがね。また尋《たず》ねようと思って、阿母《おふくろ》は、と見ると、秋の暮方《くれがた》の事だっけ。ずっと病気で寝ていたのが、ちと心持がよかったか、床《とこ》を出て、二階の臂《ひじ》かけ窓《まど》に袖《そで》をかけて、じっと戸外《そと》を見てうっとり見惚《みと》れたような様子だから、遠慮《えんりょ》をして、黙って見ていると、どうしたか、ぐッと肩を落して、はらはらと涙《なみだ》を落した。
どうしたの? と飛ついて、鬢《びん》の毛のほつれた処へ、私の頬《ほお》がくっついた時、と見ると向うの軒下《のきした》に、薄く青い袖をかさねて、しょんぼりと立って、暗くなった山の方を見ていたのがその人で、」
と謙造は面《おもて》を背《そむ》けて、硝子窓《がらすまど》。そのおなじ山が透《す》かして見える。日は傾《かたむ》いたのである。
六
「その時は、艶々《つやつや》した丸髷《まげ》に、浅葱絞《あさぎしぼ》りの手柄《てがら》をかけていなすった。ト私が覗《のぞ》いた時、くるりと向うむきになって、格子戸へ顔をつけて、両袖でその白
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