私の手をむずと取って駆出《かけだ》したんだが、引立《ひった》てた腕《うで》が※[#「てへん+宛」、第3水準1−84−80]《も》げるように痛む、足も宙《ちゅう》で息が詰《つま》った。養子は、と見ると、目が血走っていようじゃないか。
泣出したもんだから、横抱《よこだき》にして飛んで帰ったがね。私は何だか顔はあかし、天狗《てんぐ》にさらわれて行ったような気がした。袂に入れた桃の実は途中で振落《ふりおと》して一つもない。
そりゃいいが、半年|経《た》たない内にその男は離縁《りえん》になった。
だんだん気が荒《あら》くなって、※[#「姉」の正字、「女+※[#第3水準1−85−57]のつくり」、301−1]《ねえ》さんのたぶさを掴《つか》んで打った、とかで、田地《でんじ》は取上げ、という評判《ひょうばん》でね、風の便りに聞くと、その養子は気が違ってしまったそうだよ。
その後《のち》、晩方《ばんがた》の事だった。私はまた例の百人一首を持出して、おなじ処を開けて腹這《はらば》いで見ていた。その絵を見る時は、きっと、この※[#「姉」の正字、「女+※[#第3水準1−85−57]のつくり」、301
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