くり」、299−2]《ねえ》さんが、そう云った、坊《ぼう》を連れて行けというからと、私を誘ってくれたんだ。
 例の巾着をつけて、いそいそ手を曳《ひ》かれて連れられたんだが、髪を綺麗《きれい》に分けて、帽子《ぼうし》を冠《かぶ》らないで、確かその頃|流行《はや》ったらしい。手甲《てっこう》見たような、腕へだけ嵌《は》まる毛糸で編んだ、萌黄《もえぎ》の手袋を嵌めて、赤い襯衣《しゃつ》を着て、例の目を光らしていたのさ。私はその娘さんが、あとから来るのだろう、来るのだろうと、見返り見返りしながら手を曳かれて行ったが、なかなか路《みち》は遠かった。
 途中で負《おぶ》ってくれたりなんぞして、何でも町尽《まちはずれ》へ出て、寂《さびし》い処を通って、しばらくすると、大きな榎《えのき》の下に、清水《しみず》が湧《わ》いていて、そこで冷い水を飲んだ気がする。清水には柵《さく》が結《ゆ》ってあってね、昼間だったから、点《つ》けちゃなかったが、床几《しょうぎ》の上に、何とか書いた行燈《あんどん》の出ていたのを覚えている。
 そこでひとしきり、人通りがあって、もうちと行くと、またひっそりして、やがて大きな桑
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