や、その時は賑《にぎや》かだッけ。」
と陽気な声。
五
「土蔵がずッしりとあるだけに、いつも火の気のないような、しんとした、大きな音じゃ釜《かま》も洗わないといった家が、夜になると、何となく灯《あかり》がさして、三味線《しゃみせん》太鼓《たいこ》の音がする。時々どっと山颪《やまおろし》に誘われて、物凄《ものすご》いような多人数《たにんず》の笑声《わらいごえ》がするね。
何ッて、母親《おふくろ》の懐《ふところ》で寝ながら聞くと、これは笑っているばかり。父親《おやじ》が店から声をかけて、魔物が騒ぐんだ、恐《こわ》いぞ、と云うから、乳へ顔を押着《おッつ》けて息を殺して寝たっけが。
三晩《みばん》ばかり続いたよ。田地田畠《でんじでんばた》持込《もちこみ》で養子が来たんです。
その養子というのは、日にやけた色の赤黒い、巌乗《がんじょう》づくりの小造《こづくり》な男だっけ。何だか目の光る、ちときょときょとする、性急《せっかち》な人さ。
性急《せっかち》なことをよく覚えている訳は、桃《もも》を上げるから一所においで。※[#「姉」の正字、「女+※[#第3水準1−85−57]のつ
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