わか》いのよ。出が王様の城だから、姫君の鸚鵡《おうむ》が一羽《いちわ》。
 全身|緋色《ひいろ》なんだつて。……
 此が、哥太寛《こたいかん》と云ふ、此家《ここ》の主人《あるじ》たち夫婦の秘蔵娘で、今年十八に成る、哥鬱賢《こうつけん》と云うてね、島第一の美しい人のものに成つたの。和蘭陀の公子は本望《ほんもう》でせう……実は其が望みだつたらしいから――
 鸚鵡は多年|馴《な》らしてあつて、土地の言語は固《もと》よりだし、瓜哇《ジャワ》、勃泥亜《ボルネオ》の訛《なまり》から、馬尼剌《マニラ》、錫蘭《セイロン》、沢山《たんと》は未《ま》だなかつた、英吉利《イギリス》の語も使つて、其は……怜悧《りこう》な娘をはじめ、誰にも、よく解るのに、一《ひと》ツ人の聞馴《ききな》れない、不思議な言語《ことば》があつたんです。
 以前の持主、二度目のはお取次《とりつぎ》、一人も仕込んだ覚えはないから、其の人たちは無論の事、港へ出入る、国々島々のものに尋ねても、まるつきし通じない、希有《けう》な文句を歌ふんですがね、検《しら》べて見ると、其が何なの、此の内へ来てから、はじまつたと分つたんです。
 何かの折の御馳走に、哥太寛《こたいかん》が、――今夜だわね――其の人たちを高楼《たかどの》に招《まね》いて、話の折に、又其の事を言出《いいだ》して、鸚鵡《おうむ》の口真似もしたけれども、分らない文句は、鳥の声とばツかし聞えて、傍《そば》で聞く黒人《くろんぼ》たちも、妙な顔色《かおつき》で居る所……ね……
 其処《そこ》へですよ、奥深く居て顔は見せない、娘の哥鬱賢《こうつけん》から、※[#「女+必」、第4水準2−5−45]《こしもと》が一人|使者《つかい》で出ました……」

        四

「差出《さしで》がましうござんすが、お座興にもと存じて、お客様の前ながら、申上げます、とお嬢様、御口上《ごこうじょう》。――内に、日本《にっぽん》と云ふ、草毟《くさむしり》の若い人が居《お》りませう……ふと思ひ着きました。あのものをお召し遊ばし、鸚鵡の謎《なぞ》をお問合はせなさいましては如何《いかが》でせうか、と其の※[#「女+必」、第4水準2−5−45]《こしもと》が陳《の》べたんです。
 鸚鵡は、尤《もっと》も、お嬢さんが片時《かたとき》も傍《そば》を離さないから、席へ出ては居なかつたの。
 でね、此を
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