しかったというのは、或《ある》晩|多勢《おおぜい》の人が来て、雨落《あまお》ちの傍《そば》の大きな水瓶《みずがめ》へ種々《いろいろ》な物品《もの》を入れて、その上に多勢《おおぜい》かかって、大石を持って来て乗せておいて、最早《もう》これなら、奴も動かせまいと云っていると、その言葉の切れぬ内に、グワラリと、非常な響《ひびき》をして、その石を水瓶《みずがめ》から、外へ落したので、皆《みんな》が顔色を変えたと云う事。一時《あるとき》などは椽側《えんがわ》に何だか解らぬが動物の足跡が付いているが、それなんぞしらべて丁度《ちょうど》障子の一小間《ひとこま》の間を出入《ではいり》するほどな動物だろうという事だけは推測出来たが、誰《たれ》しも、遂にその姿を発見したものはない。終《つい》には洋燈《らんぷ》を戸棚へ入れるというような、危険|千万《せんばん》な事になったので、転居をするような仕末、一時《いちじ》は非常な評判になって、家《うち》の前は、見物の群集で雑沓《ざっとう》して、売物店《うりものだな》まで出たとの事。
これと似た談《はなし》が房州《ぼうしゅう》にもある、何でも白浜《しらはま》の近方《
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