端《まちはず》れが、その人の父が其処《そこ》の屋敷に住んだところ、半年《はんねん》ばかりというものは不思議な出来事が続け様《さま》で、発端は五月頃、庭へ五六輪、菖蒲《あやめ》が咲《さい》ていたそうでその花を一朝《ひとあさ》奇麗にもぎって、戸棚の夜着《やぎ》の中に入れてあった。初めは何か子供の悪戯《いたずら》だろうくらいにして、別に気にもかけなかったが、段々《だんだん》と悪戯《いたずら》が嵩《こう》じて、来客の下駄や傘《からかさ》がなくなる、主人が役所へ出懸《でか》けに机の上へ紙入《かみいれ》を置いて、後向《うしろむき》に洋服を着ている間《ま》に、それが無くなる、或《ある》時は机の上に置いた英和辞典を縦横《たてよこ》に絶切《たちき》って、それにインキで、輪のようなものを、目茶苦茶に悪書《あくがき》をしてある。主人も、非常に閉口したので、警察署へも依頼した、警察署の連中は、多分その家《うち》に七歳《ななつ》になる男の児《こ》があったが、それの行為《しわざ》だろうと、或《ある》時その児を紐で、母親に附着《くっつ》けておいたそうだけれども、悪戯《いたずら》は依然止まぬ。就中《なかんずく》、恐ろ
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