ぞろに落涙せり。(略)かく荒れ果てたる小堂の雨風をだに防ぎかねて、彩色も云々《うんぬん》。
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甲冑堂の婦人像のあわれに絵の具のあせたるが、遥《はる》けき大空の雲に映りて、虹《にじ》より鮮明《あざやか》に、優しく読むものの目に映りて、その人あたかも活《い》けるがごとし。われらこの烈《はげ》しき大都会の色彩を視《なが》むるもの、奥州辺の物語を読み、その地の婦人を想像するに、大方は安達《あだち》ヶ原の婆々《ばばあ》を想い、もっぺ穿《は》きたる姉《あねえ》をおもい、紺の褌《ふんどし》の媽々《かかあ》をおもう。同じ白石の在所うまれなる、宮城野と云い信夫《しのぶ》と云うを、芝居にて見たるさえ何とやらん初鰹《はつがつお》の頃は嬉しからず。ただ南谿が記したる姉妹のこの木像のみ、外ヶ浜の沙漠の中にも緑水《オアシス》のあたり、花菖蒲《はなあやめ》、色のしたたるを覚ゆる事、巴《ともえ》、山吹のそれにも優《まさ》れり。幼き頃より今もまた然《しか》り。
元禄の頃の陸奥《むつ》千鳥には――木川村入口に鐙摺《あぶみずり》の岩あり、一騎|立《だち》の細道なり、少し行《ゆ》きて右の方《かた》
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