高福寺なる甲冑堂の婦人像を記せるあり。
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奥州|白石《しろいし》の城下より一里半南に、才川と云う駅あり。この才川の町末に、高福寺という寺あり。奥州筋近来の凶作にこの寺も大破に及び、住持となりても食物乏しければ僧も不住《すまず》、明寺《あきでら》となり、本尊だに何方《いずかた》へ取納めしにや寺には見えず、庭は草深く、誠に狐梟《こきょう》のすみかというも余《あまり》あり。この寺中に又一ツの小堂あり。俗に甲冑堂という。堂の書附には故将堂とあり、大《おおき》さ纔《わずか》に二間四方|許《ばかり》の小堂なり。本尊だに右の如くなれば、この小堂の破損はいう迄もなし、ようように縁にあがり見るに、内に仏とてもなく、唯《ただ》婦人の甲冑して長刀《なぎなた》を持ちたる木像二つを安置せり。
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 これ、佐藤|継信《つぎのぶ》忠信《ただのぶ》兄弟の妻、二人都にて討死せしのち、その母の泣悲しむがいとしさに、我が夫の姿をまなび、老いたる人を慰めたる、優しき心をあわれがりて時の人木像に彫《きざ》みしものなりという。
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この物語を聞き、この像を拝するにそ
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