一景話題
泉鏡花

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)頃日《このごろ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)慈光|洽《あまね》き

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「りっしんべん+刀」、第3水準1−84−38]
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     夫人堂

 神戸にある知友、西本氏、頃日《このごろ》、摂津国摩耶山《せっつのくにまやさん》の絵葉書を送らる、その音信《おとずれ》に、
[#ここから4字下げ]
なき母のこいしさに、二里の山路をかけのぼり候。靉靆《たなび》き渡る霞の中に慈光|洽《あまね》き御《おん》姿を拝み候。
[#ここで字下げ終わり]
 しかじかと認《したた》められぬ。見るからに可懐《なつか》しさ言わんかたなし。此方《こなた》もおなじおもいの身なり。遥《はるか》にそのあたりを思うさえ、端麗なるその御《おん》姿の、折からの若葉の中に梢《こずえ》を籠《こ》めたる、紫の薄衣《うすぎぬ》かけて見えさせたまう。
 地誌を按《あん》ずるに、摩耶山は武庫郡
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