る》、関山難踰者《かんざんこえがたきもの》、方是乎可信依《まさにここにおいてかしんいすべし》、土人称破鐙坂《どじんやれあぶみのさかとしょうす》、破鐙坂東有一堂《やれあぶみざかのひがしにいちどうあり》、中置二女影《なかににじょえいをおく》、身着戎衣服《みにじゅういのふくをつけ》、頭戴烏帽子《かしらにえぼしをいただき》、右方執弓矢《うほうにきうしをとり》、左方撫刀剣《さほうにとうけんをぶす》――とありとか。
 この女像にして、もし、弓矢を取り、刀剣を撫《ぶ》すとせんか、いや、腰を踏張《ふんば》り、片膝|押《おし》はだけて身構えているようにて姿甚だととのわず。この方が真《まこと》ならば、床しさは半ば失《う》せ去る。読む人々も、かくては筋骨|逞《たくま》しく、膝節《ひざぶし》手ふしもふしくれ立ちたる、がんまの娘を想像せずや。知らず、この方《かた》はあるいは画像などにて、南谿が目のあたり見て写しおける木像とは違《たが》えるならんか。その長刀《なぎなた》持ちたるが姿なるなり。東遊記なるは相違あらじ。またあらざらん事を、われらは願う。観聞志もし過《あやま》ちたらんには不都合なり、王勃《おうぼつ》が謂
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