《い》う所などはどうでもよし、心すべき事ならずや。
 近頃心して人に問う、甲冑堂の花あやめ、あわれに、今も咲けるとぞ。
 唐土の昔、咸寧《かんねい》の吏、韓伯《かんはく》が子|某《なにがし》と、王蘊《おううん》が子某と、劉耽《りゅうたん》が子某と、いずれ華冑《かちゅう》の公子等、相携えて行《ゆ》きて、土地の神、蒋山《しょうざん》の廟《びょう》に遊ぶ。廟中数婦人の像あり、白皙《はくせき》にして甚だ端正。
 三人この処に、割籠《わりご》を開きて、且つ飲み且つ大《おおい》に食《くら》う。その人も無げなる事、あたかも妓を傍《かたわら》にしたるがごとし。あまつさえ酔に乗じて、三人おのおの、その中《うち》三婦人の像を指《ゆびさ》し、勝手に選取《よりど》りに、おのれに配して、胸を撫《な》で、腕を圧《お》し、耳を引く。
 時に、その夜の事なりけり。三人同じく夢む。夢に蒋侯《しょうこう》、その伝教《さんだいふ》を遣わして使者の趣を白《もう》さす。曰く、不束《ふつつか》なる女ども、猥《みだり》に卿等《けいら》の栄顧を被る、真に不思議なる御縁の段、祝着に存ずるものなり。就《つい》ては、某《それ》の日、あたか
前へ 次へ
全15ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング