》きさえ認《したた》められたが、一度《ひとたび》胸を蔽《おお》い、手を拱《こまぬ》けば、たちどころに消えて見えなくなるであろうと、立花は心に信じたので、騒ぐ状《さま》なくじっと見据えた。
「はい。」
「お迎《むかい》に参りました。」
 駭然《がくぜん》として、
「私を。」
「内方《うちかた》でおっしゃいます。」
「お召ものの飾から、光の射《さ》すお方を見たら、お連れ申して参りますように、お使《つかい》でございます。」と交《かわ》る交《がわ》るいって、向合って、いたいたけに袖《そで》をひたりと立つと、真中《まんなか》に両方から舁《か》き据えたのは、その面《おもて》銀のごとく、四方あたかも漆のごとき、一面の将棋盤。
 白き牡丹《ぼたん》の大輪なるに、二ツ胡蝶《こちょう》の狂うよう、ちらちらと捧げて行《ゆ》く。
 今はたとい足許が水になって、神路山の松ながら人肌を通す流《ながれ》に変じて、胸の中に舟を纜《もや》う、烏帽子《えぼし》直垂《ひたたれ》をつけた船頭なりとも、乗れとなら乗る気になった。立花は怯《お》めず、臆《おく》せず、驚破《すわ》といわば、手釦《てぼたん》、襟飾を隠して、あらゆるも
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