のを見ないでおこうと、胸を据えて、静《しずか》に女童《めのわらわ》に従うと、空はらはらと星になったは、雲の切れたのではない。霧の晴れたのではない、渠《かれ》が飾れる宝玉の一叢《ひとむら》の樹立《こだち》の中へ、倒《さかさま》に同一《おなじ》光を敷くのであった。
 ここに枝折戸《しおりど》。
 戸は内へ、左右から、あらかじめ待設けた二|人《にん》の腰元の手に開かれた、垣は低く、女どもの高髷《たかまげ》は、一対に、地ずれの松の枝より高い。

       十一

「どうぞこれへ。」
 椅子《いす》を差置かれた池の汀《みぎわ》の四阿《あずまや》は、瑪瑙《めのう》の柱、水晶の廂《ひさし》であろう、ひたと席に着く、四辺《あたり》は昼よりも明《あかる》かった。
 その時打向うた卓子《テエブル》の上へ、女《め》の童《わらわ》は、密《そっ》と件《くだん》の将棋盤を据えて、そのまま、陽炎《かげろう》の縺《もつ》るるよりも、身軽に前後して樹の蔭にかくれたが、枝折戸《しおりど》を開いた侍女《こしもと》は、二人とも立花の背後《うしろ》に、しとやかに手を膝《ひざ》に垂れて差控えた。
 立花は言葉をかけようと思っ
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