ば冥土《よみじ》の色ならず、真珠の流《ながれ》を渡ると覚えて、立花は目が覚めたようになって、姿を、判然《はっきり》と自分を視《なが》めた。
我ながら死して栄《はえ》ある身の、こは玉となって砕けたか。待て、人の妻と逢曳《あいびき》を、と心付いて、首《こうべ》を低《た》れると、再び真暗《まっくら》になった時、更に、しかし、身はまだ清らかであると、気を取直して改めて、青く燃ゆる服の飾を嬉しそうに見た。そして立花は伊勢は横幅の渾沌《こんとん》として広い国だと思った。宵の内通った山田から相の山、茶店で聞いた五十鈴川、宇治橋も、神路山も、縦に長く、しかも心に透通るように覚えていたので。
その時、もう、これをして、瞬間の以前、立花が徒《いたずら》に、黒白《あやめ》も分かず焦り悶《もだ》えた時にあらしめば、たちまち驚いて倒れたであろう、一間ばかり前途《ゆくて》の路に、袂《たもと》を曳《ひ》いて、厚い※[#「ころもへん+施のつくり」、第3水準1−91−72]《ふき》を踵《かかと》にかさねた、二人、同一《おなじ》扮装《いでたち》の女《め》の童《わらわ》。
竪矢《たてや》の字の帯の色の、沈んで紅《あか
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