いるのであるが、鮮明《あざやか》にその数字さえ算《かぞ》えられたのは、一点、蛍火《ほたるび》の薄く、そして瞬《またたき》をせぬのがあって、胸のあたりから、斜《ななめ》に影を宿したためで。
手を当てると冷《つめた》かった、光が隠れて、掌《たなそこ》に包まれたのは襟飾《えりかざり》の小さな宝石、時に別に手首を伝い、雪のカウスに、ちらちらと樹《こ》の間から射《さ》す月の影、露の溢《こぼ》れたかと輝いたのは、蓋《けだ》し手釦《てぼたん》の玉である。不思議と左を見詰めると、この飾もまた、光を放って、腕《かいな》を開くと胸がまた晃《きらめ》きはじめた。
この光、ただに身に添うばかりでなく、土に砕け、宙に飛んで、翠《みどり》の蝶《ちよう》の舞うばかり、目に遮るものは、臼《うす》も、桶《おけ》も、皆これ青貝摺《あおがいずり》の器《うつわ》に斉《ひとし》い。
一足進むと、歩くに連れ、身の動くに従うて、颯《さっ》と揺れ、溌《ぱっ》と散って、星一ツ一ツ鳴るかとばかり、白銀《しろがね》黄金《こがね》、水晶、珊瑚珠《さんごじゅ》、透間《すきま》もなく鎧《よろ》うたるが、月に照添うに露|違《たが》わず、され
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