て、
「さあ。」
手を中へ差入れた、紙包を密《そっ》と取って、その指が搦《から》む、手と手を二人。
隔《へだて》の襖は裏表、両方の肩で圧《お》されて、すらすらと三寸ばかり、暗き柳と、曇れる花、淋《さみ》しく顔を見合せた、トタンに跫音《あしおと》、続いて跫音、夫人は衝《つ》と退《の》いて小さな咳《しわぶき》。
さそくに後を犇《ひし》と閉め、立花は掌《たなそこ》に据えて、瞳《ひとみ》を寄せると、軽く捻《ひね》った懐紙《ふところがみ》、二隅《ふたすみ》へはたりと解けて、三ツ美《うつくし》く包んだのは、菓子である。
と見ると、白と紅《くれない》なり。
「はてな。」
立花は思わず、膝《ひざ》をついて、天井を仰いだが、板か、壁か明かならず、低いか、高いか、定《さだか》でないが、何となく暗夜《やみよ》の天まで、布|一重《ひとえ》隔つるものがないように思われたので、やや急心《せきごころ》になって引寄せて、袖《そで》を見ると、着たままで隠れている、外套《がいとう》の色が仄《ほのか》に鼠。
菓子の色、紙の白きさえ、ソレかと見ゆるに、仰げば節穴かと思う明《あかり》もなく、その上、座敷から、射《さ
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