、肯《き》かないでまた旅へ出掛けたの。
私が今日こちらへ泊って、翌朝《あした》お参《まいり》をするッてことは、かねがね話をしていたから、大方|旅行先《たびさき》から落合って来たことと思ったのに、まあ、お前、どうしたというのだろうね。」
「はッ。」
というと肩をすぼめて首《こうべ》を垂れ、
「これは、もし、旅で御病気かも知れませぬ。いえ、別に、貴女様《あなたさま》お身体《からだ》に仔細《しさい》はござりませぬが、よくそうしたことがあるものにござります。はい、何、もうお見上げ申しましたばかりでも、奥方様、お身のまわりへは、寒い風だとて寄ることではござりませぬが、御帰宅の後はおこころにかけられて、さきざきお尋ね遊ばしてお上げなされまし、これはその立花様とおっしゃる方が、親御、御兄弟より貴女様を便りに遊ばしていらっしゃるに相違ござりませぬ。」
夫人はこれを聞くうちに、差俯向《さしうつむ》いて、両方引合せた袖口《そでくち》の、襦袢《じゅばん》の花に見惚《みと》れるがごとく、打傾いて伏目《ふしめ》でいた。しばらくして[#「しばらくして」は底本では「しばらしくて」]、さも身に染みたように、肩を
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