震わすと、後毛《おくれげ》がまたはらはら。
「寒くなった、私、もう寝るわ。」
「御寝《ぎょし》なります、へい、唯今《ただいま》女中《おんな》を寄越しまして、お枕頭《まくらもと》もまた、」
「いいえ、煙草《たばこ》は飲まない、お火なんか沢山。」
「でも、その、」
「あの、しかしね、間違えて外の座敷へでも行っていらっしゃりはしないか、気をつけておくれ。」
「それはもう、きっと、まだ、方々見させてさえござりまする。」
「そうかい、此家《うち》は広いから、また迷児《まいご》にでもなってると悪い、可愛い坊ちゃんなんだから。」とぴたりと帯に手を当てると、帯しめの金金具《きんかなぐ》が、指の中でパチリと鳴る。
先刻《さっき》から、ぞくぞくして、ちりけ元は水のような老番頭、思いの外、女客の恐れぬを見て、この分なら、お次へ四天王にも及ぶまいと、
「ええ、さようならばお静《しずか》に。」
「ああ、御苦労でした。」と、いってすッと立つ、汽車の中からそのままの下じめがゆるんだか、絹足袋の先へ長襦袢、右の褄《つま》がぞろりと落ちた。
「お手水《ちょうず》。」
「いいえ、寝るの。」
「はッ。」と、いうと、腰を上
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