るが、この寒いに、戸外《おもて》からお入りなさったきり、洒落《しゃれ》にかくれんぼを遊ばす陽気ではござりません。殊に靴までお隠しなさりますなぞは、ちと手重《ておも》過ぎまするで、どうも変でござりまするが、お年紀頃《としごろ》、御容子《ごようす》は、先刻《さっき》申上げましたので、その方に相違ござりませぬか、お綺麗な、品の可《い》い、面長《おもなが》な。」
「全く、そう。」
「では、その方は、さような御串戯《ごじょうだん》をなさる御人体《ごじんてい》でござりますか、立花様とおっしゃるのは。」
「いいえ、大人《おとなし》い、沢山《たんと》口もきかない人、そして病人なの。」
そりゃこそと番頭。
「ええ。」
「もう、大したことはないんだけれど、一時《ひとしきり》は大病でね、内の病院に入っていたんです。東京で私が姉妹《きょうだい》のようにした、さるお嬢さんの従兄子《いとこ》でね、あの美術、何、彫刻師《ほりものし》なの。国々を修行に歩行《ある》いている内、養老の滝を見た帰りがけに煩って、宅で養生をしたんです。二月ばかり前から、大層、よくなったには、よくなったんだけれど、まだ十分でないッていうのに
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