《くるま》が留まって、門《かど》をお叩きなさいまする。」

       七

「お気の毒ながらと申して、お宿を断らせました処、連《つれ》が来て泊っている。ともかくも明けい、とおっしゃりますについて、あの、入口の、たいてい原ほどはござります、板の間が、あなた様、道者衆《どうじゃしゅう》で充満《いっぱい》で、足踏《あしぶみ》も出来ません処から、框《かまち》へかけさせ申して、帳場の火鉢を差上げましたような次第で、それから貴女様《あなたさま》がお泊りの筈《はず》、立花が来たと伝えくれい、という事でござりまして。
 早速お通し申しましょうかと存じましたなれども、こちら様はお一方《ひとかた》、御婦人でいらっしゃいます事ゆえ念のために、私《わたくし》お伺いに出ました儀で、直ぐにという御意にござりましたで、引返《ひっかえ》して、御案内。ええ、唯今《ただいま》の女が、廊下をお連れ申したでござります。
 女が、貴女様このお部屋へ、その立花様というのがお入り遊ばしたのを見て、取って返しましたで、折返して、お支度の程を伺わせに唯今差出しました処、何か、さような者は一向お見えがないと、こうおっしゃいます。また
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