ります。確かたった今、私《わたくし》が、こちらへお客人をお取次申しましてござりましてござりまするな。」
「そう、立花さんという方が見えたってお謂《い》いだったよ。どうかしたの。」
「へい、そこで女どもをもちまして、お支度の儀を伺わせました処、誰方《どなた》もお見えなさりませんそうでござりまして。」
「ああ、そう、誰もいらっしゃりやしませんよ。」
「はてな、もし。」
「何なの、お支度ッて、それじゃ、今着いた人なんですか、内に泊ってでもいて、宿帳で、私のいることを知ったというような訳ではなくッて?」
「何、もう御覧の通《とおり》、こちらは中庭を一ツ、橋懸《はしがかり》で隔てました、一室《ひとま》別段のお座敷でござりますから、さのみ騒々しゅうもございませんが、二百余りの客でござりますで、宵の内はまるで戦争《いくさ》、帳場の傍《はた》にも囲炉裡《いろり》の際《きわ》にも我勝《われがち》で、なかなか足腰も伸びません位、野陣《のじん》見るようでござりまする。とてもどうもこの上お客の出来る次第ではござりませんので、早く大戸を閉めました。帳場はどうせ徹夜《よあかし》でござりますが、十二時という時、腕車
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