必ず必ずお急《せ》き立て申しますではないのでござりまするけれども、お早く遊ばしませぬと、お泊《とまり》が難しゅうござりますので。
 はい、いつもまあこうやって、大神宮様のお庇《かげ》で、繁昌《はんじょう》をいたしまするが、旧の大晦日《おおみそか》と申しますと、諸国の講中《こうじゅう》、道者《どうじゃ》、行者《ぎょうじゃ》の衆《しゅ》、京、大阪は申すに及びませぬ、夜一夜、古市でお籠《こもり》をいたしまして、元朝、宇治橋を渡りまして、貴客《あなた》、五十鈴川で嗽手水《うがいちょうず》、神路山を右に見て、杉の樹立《こだち》の中を出て、御廟《おたまや》の前でほのぼのと白《しら》みますという、それから二見ヶ浦へ初日の出を拝みに廻られまする、大層な人数。
 旦那様お通りの時分には、玉ころがしの店、女郎屋の門《かど》などは軒並《のきなみ》戸が開《あ》いておりましてございましょうけれども、旅籠屋は大抵戸を閉めておりましたことと存じまする。
 どの家も一杯で、客が受け切れませんのでござります。」
 婆々はひしひし、大手の木戸に責め寄せたが、
「しかし貴客《あなた》、三人、五人こぼれますのは、旅籠《はたご
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