を斜めに、近々と帽の中。
「まったく色が悪い。どうも毛虫ではないようですね。」
これには答えず、やや石段の前を通った。
しばらくして、
「銑さん、」
「ええ、」
「帰途《かえり》に、またここを通るんですか。」
「通りますよ。」
「どうしても通らねば不可《いけ》ませんかねえ、どこぞ他《ほか》に路がないんでしょうか。」
「海ならあります。ここいらは叔母さん、海岸の一筋路ですから、岐路《わかれみち》といっては背後《うしろ》の山へ行《ゆ》くより他《ほか》にはないんですが、」
「困りましたねえ。」
と、つくづく云う。
「何ね、時刻に因って、汐《しお》の干ている時は、この別荘の前なんか、岩を飛んで渡られますがね、この節の月じゃどうですか、晩方干ないかも知れません。」
「船はありますか。」
「そうですね、渡船《わたしぶね》ッて別にありはしますまいけれど、頼んだら出してくれないこともないでしょう、さきへ行って聞いて見ましょう。」
「そうね。」
「何、叔母さんさえ信用するんなら、船だけ借りて、漕《こ》ぐことは僕にも漕げます。僕じゃ危険《けんのん》だというでしょう。」
「何《なん》でも可《よ》うござ
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