。ああ、恐かった。」
とそのままには足も進まず、がッかりしたような風情である。
「何が、叔母さん。この日中《ひなか》に何が恐いんです。大方また毛虫でしょう、大丈夫、毛虫は追駈《おっか》けては来ませんから。」
「毛虫どころじゃアありません。」
と浦子は後《うしろ》見らるる状《さま》。声も低う、
「銑さん、よっぽどの間だったでしょう。」
「ざッと一時間……」
半分は懸直《かけね》だったのに、夫人はかえってさもありそうに、
「そうでしたかねえ、私はもっとかと思ったくらい。いつ、店を出られるだろう、と心細いッたらなかったよ。」
「なぜ、どうしたんですね、一体。」
「まあ、そろそろ歩行《ある》きましょう。何だか気草臥《きくたび》れでもしたようで、頭も脚もふらふらします。」
歩を移すのに引添うて、身体《からだ》で庇《かば》うがごとくにしつつ、
「ほんとに驚いたんですか。そういえば、顔の色もよくないようですよ。」
「そうでしょう、悚然《ぞっ》として、未《いま》だに寒気がしますもの。」
と肩を窄《すぼ》めて俯向《うつむ》いた、海水帽も前下り、頸《うなじ》白く悄《しお》れて連立つ。
少年は顔
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