は呼吸《いき》ぜわしい。
「どうしたんです、何を買っていらしったんです。吃驚《びっくり》するほど長かった。」
打見《うちみ》に何の仔細《しさい》はなきが、物怖《ものおじ》したらしい叔母の状《さま》を、たかだか例の毛虫だろう、と笑いながら言う顔を、情《なさけ》らしく熟《じっ》と見て、
「まあ、呑気《のんき》らしい、早附木《マッチ》を取って上げたんじゃありませんか。」
はじめて、ほッとした様子。
「頂戴! いつかの靴以来です。こうは叔母さんでなくッちゃ出来ない事です。僕もそうだろうと思ったんです。」
「そうだろうじゃありませんわ。」
「じゃ、早附木ではないんですか。」
三
「いいえ、銑さんが煙草《たばこ》を出すと、早附木《マッチ》がないから、打棄《うっちゃ》っておくと、またいつものように、煙草には思い遣《や》りがない、監督のようだなんて云うだろうと思って、気を利かして、ちょうど、あの店で、」
と身を横に、踵《かかと》を浮かして、恐《こわ》いもののように振返って、
「見附かったからね、黙って買って上げようと思って入ったんですがね、お庇《かげ》で大変な思いをしたんですよ
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