悪獣篇
泉鏡花

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)銑太郎《せんたろう》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)花|揺《ゆら》ぐ

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「目+句」、第4水準2−81−91]《みまわ》す

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)漕いで見せな/\
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       一

 つれの夫人がちょっと道寄りをしたので、銑太郎《せんたろう》は、取附《とッつ》きに山門の峨々《がが》と聳《そび》えた。巨刹《おおでら》の石段の前に立留まって、その出て来るのを待ち合せた。
 門の柱に、毎月《まいげつ》十五十六日当山説教と貼紙《はりがみ》した、傍《かたわら》に、東京……中学校水泳部合宿所とまた記してある。透《すか》して見ると、灰色の浪を、斜めに森の間《なか》にかけたような、棟の下に、薄暗い窓の数、厳穴《いわあな》の趣して、三人五人、小さくあちこちに人の形。脱ぎ棄《す》てた、浴衣、襯衣《しゃつ》
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