》の清《すず》しやかに、美しくすなおな眉の、濃きにや過ぐると煙ったのは、五日月《いつかづき》に青柳《あおやぎ》の影やや深き趣あり。浦子というは二十七。
 豪商|狭島《さじま》の令室で、銑太郎には叔母に当る。
 この路を去る十二三町、停車場|寄《より》の海岸に、石垣高く松を繞《めぐ》らし、廊下で繋《つな》いで三棟《みむね》に分けた、門には新築の長屋があって、手車の車夫の控える身上《しんしょう》。
 裳《もすそ》を厭《いと》う砂ならば路に黄金《こがね》を敷きもせん、空色の洋服の褄を取った姿さえ、身にかなえば唐《から》めかで、羽衣着たりと持て囃《はや》すを、白襟で襲衣《かさね》の折から、羅《うすもの》に綾《あや》の帯の時、湯上りの白粉《おしろい》に扱帯《しごき》は何というやらん。この人のためならば、このあたりの浜の名も、狭島が浦と称《とな》えつびょう、リボンかけたる、笄《こうがい》したる、夏の女の多い中に、海第一と聞えた美女《たおやめ》。
 帽子の裡《うち》の日の蔭に、長いまつげのせいならず、甥《おい》を見た目に冴《さえ》がなく、顔の色も薄く曇って、
「銑さん。」
 とばかり云った、浴衣の胸
前へ 次へ
全96ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング