た。小船は見る見る廉平の高くあげた手の指を離れて、岩がくれにやがてただ雲をこぼれた点となンぬ。
 親船は他愛がなかった。
 廉平は急ぎ足に取って返して、また丘の根の巌を越して、苫船《とまぶね》に立寄って、此方《こなた》の船舷《ふなばた》を横に伝うて、二三度、同じ処を行ったり、来たり。
 中ごろで、踞《しゃが》んで畚《びく》の陰にかくれたと思うと、また突立《つった》って、端の方から苫を撫《な》でたり、上からそっと叩きなどしたが、更にあちこちを※[#「目+句」、第4水準2−81−91]《みまわ》して、ぐるりと舳《へさき》の方へ廻ったと思うと、向うの舷《ふなばた》の陰になった。
 苫がばらばらと煽《あお》ったが、「ああ」と息の下に叫ぶ声。藁《わら》を分けた艶《えん》なる片袖、浅葱《あさぎ》の褄《つま》が船からこぼれて、その浴衣の染《そめ》、その扱帯《しごき》、その黒髪も、その手足も、ちぎれちぎれになったかと、砂に倒れた婦人《おんな》の姿。

       二十四

「気を静めて、夫人《おくさん》、しっかりしなければ不可《いけ》ません。落着いて、可《い》いですか。心を確《たしか》にお持ちなさい
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