形に切崩した、処々足がかりの段のある坂を縫って、ぐるぐると駈《か》けて下り、裾《すそ》を伝うて、衝《つ》と高く、ト一飛《ひととび》低く、草を踏み、岩を渡って、およそ十四五分時を経て、ここぞ、と思う山の根の、波に曝《さら》された岩の上。
 綱もあり、立樹もあり、大きな畚《びく》も、またその畚の口と肩ずれに、船を見れば、苫|葺《ふ》いたり。あの位高かった、丘は近く頭《かしら》に望んで、崖の青芒《あおすすき》も手に届くに、婦人《おんな》たちの姿はなかった。白帆は早や渚《なぎさ》を彼方《かなた》に、上からは平《たいら》であったが、胸より高く踞《うずく》まる、海の中なる巌《いわ》かげを、明石の浦の朝霧に島がくれ行《ゆ》く風情にして。
 かえって別なる船一|艘《そう》、ものかげに隠れていたろう。はじめてここに見出《みいだ》されたが、一つ目の浜の方《かた》へ、半町ばかり浜のなぐれに隔つる処に、箱のような小船を浮べて、九つばかりと、八つばかりの、真黒《まっくろ》な男の児《こ》。一人はヤッシと艪柄《ろづか》を取って、丸裸の小腰を据え、圧《お》すほどに突伏《つッぷ》すよう、引くほどに仰反《のけぞ》るよう、
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