抜けた。最後のは前脚を揃えて海へ一文字、細長い茶色の胴を一畝《ひとうね》り畝らしたまで鮮麗《あざやか》に認められた。
 前のは白い毛に茶の斑《まだら》で、中のは、その全身漆のごときが、長く掉《ふ》った尾の先は、舳《みよし》を掠《かす》めて失《う》せたのである。

       二十二

 その時、前後して、苫《とま》からいずれも面《おもて》を離し、はらはらと船を退《の》いて、ひたと顔を合わせたが、方向《むき》をかえて、三人とも四辺《あたり》を※[#「目+句」、第4水準2−81−91]《みまわ》して彳《たたず》む状《さま》、おぼろげながら判然《はっきり》と廉平の目に瞰下《みおろ》された。
 水浅葱《みずあさぎ》のが立樹に寄って、そこともなく仰いだ時、頂なる人の姿を見つけたらしい。
 手を挙げて、二三度|続《つづけ》ざまに麾《さしまね》くと、あとの二人もひらひらと、高く手巾《ハンケチ》を掉《ふ》るのが見えた。
 要こそあれ。
 廉平は雲を抱《いだ》くがごとく上から望んで、見えるか、見えぬか、慌《あわただ》しく領《うなず》き答えて、直ちに丘の上に踵《くびす》を回《めぐ》らし、栄螺《さざえ》の
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