輪、白砂の清き浜に、台《うてな》や開くと、裳《もすそ》を捌《さば》いて衝《つ》と下り立った、洋装したる一人の婦人。
 夜干《よぼし》に敷いた網の中を、ひらひらと拾ったが、朝景色を賞《め》ずるよしして、四辺《あたり》を見ながら、その苫船《とまぶね》に立寄って苫の上に片手をかけたまま、船の方を顧みると、千鳥は啼《な》かぬが友呼びつらん。帆の白きより白衣《びゃくえ》の婦人、水紅色《ときいろ》なるがまた一人、続いて前後に船を離れて、左右に分れて身軽に寄った。
 二人は右の舷《ふなばた》に、一人は左の舷に、その苫船に身を寄せて、互《たがい》に苫を取って分けて、船の中を差覗《さしのぞ》いた。淡きいろいろの衣《きぬ》の裳は、長く渚へ引いたのである。
 廉平は頂の靄を透かして、足許を差覗いて、渠等《かれら》三人の西洋婦人、惟《おも》うに誂《あつら》えの出来を見に来たな。苫をふいて伏せたのは、この人々の註文で、浜に新造の短艇《ボオト》ででもあるのであろう。
 と見ると二人の脇の下を、飜然《ひらり》と飛び出した猫がある。
 トタンに一人の肩を越して、空へ躍るかと、もう一匹、続いて舳《へさき》から衝《つ》と
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