ただそこばかり海が動いて、舳《へさき》を揺り上げ、揺り下すを面白そうに。穉《おさな》い方は、両手に舷《ふなべり》に掴《つか》まりながら、これも裸の肩で躍って、だぶりだぶりだぶりだぶりと同一《おなじ》処にもう一艘、渚に纜《もや》った親船らしい、艪《ろ》を操る児の丈より高い、他の舷へ波を浴びせて、ヤッシッシ。
いや、道草する場合でない。
廉平は、言葉も通じず、国も違って便《たより》がないから、かわって処置せよ、と暗示されたかのごとく、その苫船《とまぶね》の中に何事かあることを悟ったので、心しながら、気は急ぎ、つかつかと毛脛《けずね》[#ルビの「けずね」は底本では「げずね」]長く藁草履《わらぞうり》で立寄った。浜に苫船はこれには限らぬから、確《たしか》に、上で見ていたのをと、頂を仰いで一度。まずその二人が前に立った、左の方の舷から、ざくりと苫を上へあげた。……
ざらざらと藁が揺れて、広き額を差入れて、べとりと頤髯《あごひげ》一面なその柔和な口を結んで、足をやや爪立《つまだ》ったと思うと、両の肩で、吃驚《おどろき》の腹を揉《も》んで、けたたましく飛び退《の》いて、下なる網に躓《つまず》い
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