胴の間《ま》へ手を支《つ》いた。
その時緑青色のその切立《きった》ての巌《いわ》の、渚《なぎさ》で見たとは趣がまた違って、亀の背にでも乗りそうな、中ごろへ、早|薄靄《うすもや》が掛《かか》った上から、白衣《びゃくえ》のが桃色の、水色のが白の手巾《ハンケチ》を、二人で、小さく振ったのを、自分は胴の間に、半ば袖《そで》をついて、倒れたようになりながら、帽子の裡《うち》から仰いで見た。
二つ目の浜で、地曳《じびき》を引く人の数は、水を切った網の尖《さき》に、二筋黒くなって砂山かけて遥《はる》かに見えた。
船は緑の岩の上に、浅き浅葱《あさぎ》の浪を分け、おどろおどろ海草の乱るるあたりは、黒き瀬を抜けても過ぎたが、首きり沈んだり、またぶくりと浮いたり、井桁《いげた》に組んだ棒の中に、生簀《いけす》があちこち、三々五々。鴎《かもめ》がちらちらと白く飛んで、浜の二階家のまわり縁を、行《ゆ》きかいする女も見え、簾《すだれ》を上げる団扇《うちわ》も見え、坂道の切通しを、俥《くるま》が並んで飛ぶのさえ、手に取るように見えたもの。
陸近《くがぢか》なれば憂慮《きづか》いもなく、ただ景色の好《よ》さに
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