るに、あの婆さんを妖物《ばけもの》か何ぞのように、こうまで恐《こわ》がるのも、と恥かしくもあれば、またそんな人たちが居る世の中に、と頼母《たのも》しく。……
と、浦子は蚊帳に震えながら思い続けた。
十四
ざんぶと浪に黒く飛んで、螺線《らせん》を描く白い水脚《みずあし》、泳ぎ出したのはその洋犬《かめ》で。
来るのは何ものだか、見届けるつもりであったろう。
長い犬の鼻づらが、水を出て浮いたむこうへ、銑さんが艪《ろ》をおしておいでだった。
うしろの小松原の中から、のそのそと人が来たのに、ぎょっとしたが、それは石屋の親方で。
草履ばきでも濡れさせまいと、船がそこった間だけ、負《おぶ》ってくれて、乗ると漕《こ》ぎ出すのを、水にまだ、足を浸したまま、鷭《ばん》のような姿で立って、腰のふたつ提《さ》げの煙草入《たばこいれ》を抜いて、煙管《きせる》と一所に手に持って、火皿をうつむけにして吹きながら、確かなもんだ確かなもんだと、銑さんの艪《ろ》を誉《ほ》めていた。
もう船が岩の間を出たと思うと、尖った舳《へさき》がするりと辷《すべ》って、波の上へ乗ったから、ひやりとして、
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