出しても悚然《ぞっ》とする。
夫人は掻巻の裾《すそ》に障《さわ》って、爪尖《つまさき》からまた悚然とした。
けれどもその時、浜辺に一人立っていて、なんだか怪しいものなぞは世にあるものとは思えないような、気丈夫な考えのしたのは、自分が彳《たたず》んでいた七八間さきの、切立《きった》てに二丈ばかり、沖から燃ゆるような紅《くれない》の日影もさせば、一面には山の緑が月に映って、練絹《ねりぎぬ》を裂くような、柔《やわらか》な白浪《しらなみ》が、根を一まわり結んじゃ解けて拡がる、大きな高い巌《いわ》の上に、水色のと、白衣《びゃくえ》のと、水紅色《ときいろ》のと、西洋の婦人が三人。――
白衣のが一番上に、水色のその肩が、水紅色のより少し高く、一段下に二人並んで、指を組んだり、裳《もすそ》を投げたり、胸を軽くそらしたり、時々楽しそうに笑ったり、話声は聞えなかったが、さものんきらしく、おもしろそうに遊んでいる。
それをまたその人々の飼犬らしい、毛色のいい、猟虎《らっこ》のような茶色の洋犬《かめ》の、口の長い、耳の大きなのが、浪際を放れて、巌《いわ》の根に控えて見ていた。
まあ、こんな人たちもあ
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