、と皆いうのじゃがの、その長者どのの後妻《うわなり》じゃ、うわなりでいさっしゃる。
 よってその長者どのとは、三十の上も年紀が違うて、男の児《こ》が一人ござって、それが今年十八じゃ。
 奥様は、それ、継母《ままはは》いの。
 気立《きだて》のやさしい、膚も心も美しい人じゃによって、継母|継児《ままこ》というようなものではなけれども、なさぬなかの事なれば、万に一つも過失《あやまち》のないように、とその十四の春ごろから、行《おこない》の正しい、学のある先生様を、内へ頼みきりにして傍《そば》へつけておかしゃった。」
 二人は正にそれなのである。

       十一

「よいかの、十四の年からこの年まで、四五六七八と五年の間、寝るにも起《おき》るにも附添うて、しんせつにお教えなすった、その先生様のたんせいというものは、一通《ひととおり》の事ではなかったとの。
 その効《かい》があってこの夏はの、そのお子がさる立派な学校へ入らっしゃるようになったに就いて、先生様は邸《やしき》を出て、自分の身体《からだ》になりたいといわっしゃる。
 それまで受けた恩があれば、お客分にして一生置き申そうということ
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