奇特なことを、うっかり聞いてござる年紀《とし》ではあるまいがや、ややお婆さん。
主は気が長いで、大方何じゃろうぞいの、地蔵様|開眼《かいげん》が済んでから、杖《つえ》を突張《つッぱ》って参らしゃます心じゃろが、お互に年紀じゃぞや。今の時世《ときよ》に、またとない結縁《けちえん》じゃに因って、半日も早うのう、その難有《ありがた》い人のお姿拝もうと思うての、やらやっと重たい腰を引立《ひった》てて出て来たことよ。」
紅糸《べにいと》の目はまた揺れて、
「奇特にござるわや。さて、その難有《ありがた》い人は誰でござる。」
「はて、それを知らしゃらぬ。主としたものは何ということぞいの。
このさきの浜際に、さるの、大長者《おおちょうじゃ》どのの、お別荘がござるてよ。その長者の奥様じゃわいの。」
「それが御建立なされるかよ。」
「おいの、いんにゃいの、建てさっしゃるはその奥様に違いないが、発願《ほつがん》した篤志《こころざし》の方はまた別にあるといの。
聞かっしゃれ。
その奥様は、世にも珍らしい、三十二相そろわしった美しい方じゃとの、膚《はだ》があたたかじゃに因って人間よ、冷たければ天女じゃ
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