ねは尽きぬ事いの。やれもやれも、」と言いながら、斜めに立った[#「立った」は底本では「立つた」]廂《ひさし》の下、何を覗《のぞ》くか爪立《つまだ》つがごとくにして、しかも肩腰は造りつけたもののよう、動かざること如朽木《くちきのごとし》。
「若い衆《しゅ》の愚痴《ぐち》より年よりの愚痴じゃ、聞く人も煩《うる》さかろ、措《お》かっしゃれ、ほほほ。のう、お婆さん。主はさてどこへ何を志して出てござった、山かいの、川かいの。」
「いんにゃの、恐しゅう歯がうずいて、きりきり鑿《のみ》で抉《えぐ》るようじゃ、と苦しむ者があるによって、私《わし》がまじのうて進じょうと、浜へ※[#「魚+覃」、第3水準1−94−50]《えい》の針掘りに出たらばよ、猟師どもの風説《うわさ》を聞かっしゃれ。志す人があって、この川ぞいの三股《みつまた》へ、石地蔵が建つというわいの。」
それを聞いて、フト振向いた少年の顔を、ぎろりと、その銀色の目で流眄《しりめ》にかけたが、取って十八の学生は、何事も考えなかった。
「や、風説《うわさ》きかぬでもなかったが、それはまことでござるかいの。」
「おいのおいの、こんな難有《ありがた》い
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