まじ》えぬを、切髪《きりかみ》にプツリと下げた、色の白い、艶《つや》のある、細面《ほそおもて》の頤《おとがい》尖《とが》って、鼻筋の衝《つ》と通った、どこかに気高い処のある、年紀《とし》は誰《た》が目も同一《おなじ》……である。

       九

「渺々乎《びょうびょうこ》として、蘆《あし》じゃ。お婆さん、好《いい》景色だね。二三度来て見た処ぢゃけれど、この店の工合が可《い》いせいか、今日は格別に広く感じる。
 この海の他《ほか》に、またこんな海があろうとは思えんくらいじゃ。」
 と頷《うなず》くように茶を一口。茶碗にかかるほど、襯衣《しゃつ》の袖の膨《ふく》らかなので、掻抱《かいいだ》く体《てい》に茶碗を持って。
 少年はうしろ向《むき》に、山を視《なが》めて、おつきあいという顔色《かおつき》。先生の影二尺を隔てず、窮屈そうにただもじもじ。
 嫗《おうな》は威儀正しく、膝《ひざ》のあたりまで手を垂れて、
「はい、申されまする通り、世がまだ開けませぬ泥沼の時のような蘆原《あしはら》でござるわや。
 この川沿《かわぞい》は、どこもかしこも、蘆が生えてあるなれど、私《わし》が小家《こい
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