感じがするで。
それに咽喉《のど》も乾いた、茶を一つ飲みましょう。まず休んで、」
と三足《みあし》ばかり、路を横へ、茶店の前の、一間ばかり蘆が左右へ分れていた、根が白く濡地《ぬれち》が透いて見えて、ぶくぶくと蟹《かに》の穴、うたかたのあわれを吹いて、茜《あかね》がさして、日は未《いま》だ高いが虫の声、艪《ろ》を漕《こ》ぐように、ギイ、ギッチョッ、チョ。
「さあ、お掛け。」
と少年を、自分の床几《しょうぎ》の傍《わき》に居《お》らせて、先生は乾くと言った、その唇を撫《な》でながら、
「茶を一つ下さらんか。」
暗い中から白い服装《なり》、麻の葉いろの巻つけ帯で、草履の音、ひた――ひた、と客を見て早や用意をしたか、蟋蟀《きりぎりす》の噛《かじ》った塗盆《ぬりぼん》に、朝顔茶碗の亀裂《ひび》だらけ、茶渋で錆《さ》びたのを二つのせて、
「あがりまし、」
と据えて出し、腰を屈《かが》めた嫗《おうな》を見よ。一筋ごとに美しく櫛《くし》の歯を入れたように、毛筋が透《とお》って、生際《はえぎわ》の揃った、柔かな、茶にやや褐《かば》を帯びた髪の色。黒き毛、白髪《しらが》の塵《ちり》ばかりをも交《
前へ
次へ
全96ページ中25ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング