をぶらさげて、蘆《あし》の中を釣棹《つりざお》を担いだ処も、工合の可《い》い感じがするのじゃがね。
その様子では、諸君に対して、とてもこのまま、棹を掉《ふ》っては[#「掉《ふ》っては」は底本では「掉《ふ》つては」]帰られん。
釣を試みたいと云うと、奥様が過分な道具を調えて下すった。この七本竹の継棹《つぎざお》なんぞ、私には勿体《もったい》ないと思うたが、こういう時は役に立つ。
一つ畳み込んで懐中《ふところ》へ入れるとしよう、賢君、ちょっとそこへ休もうではないか。」
と月を見て立停《たちどま》った、山の裾《すそ》に小川を控えて、蘆が吐き出した茶店が一軒。薄い煙に包まれて、茶は沸いていそうだけれど、葦簀張《よしずばり》がぼんやりして、かかる天気に、何事ぞ、雨露に朽ちたりな。
「可《い》いじゃありませんか、先生、畚は僕が持っていますから、松なんぞ愚図々々《ぐずぐず》言ったら、ぶッつけてやります。」
無二の味方で頼母《たのも》しく慰めた。
「いやまた、こう辟易《へきえき》して、棹を畳んで、懐中《ふところ》へ了《しま》い込んで、煙管筒《きせるづつ》を忘れた、という顔で帰る処もおもしろい
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